
内科病棟で看護実習をしていたある日に入院された若い女性のお話です。その女性は、まだ中学生か高校生にあがったばかりだったと思います。
知的障害があり、精神科の知能検査では小学生低学年程度の理解力という判定が出ていました。
先天性の糖尿病(Ⅰ型糖尿病)だったので、産まれてからずっと大きくなるまで、お母さんが血糖値を測定し、インスリンを注射して血糖値を抑えてきました。
将来のために
今回は、職業訓練に通う本人の将来を考え、自分でインスリンを打てるようにとお母さんと一緒に来院されたのでした。
まず、なされた指導は
- 1日1,260㎉の病院食と、栄養士による食事指導。
- 血糖値測定とインスリン注射の際の清潔操作。
- 適度な運動。
大人でも実行出来るか?という指導内容。
血糖のこととは別ですが、頭では理解していても毎日続けられないから、ダイエットが永遠のテーマになっている方が多いんですよね。
それから、今回の入院目的でもあるインスリンの自己注射。これが最大の難関です。
インスリンの冷や汗
採血量不足で測定器に〈エラー〉が続いたり・・・ペン型インスリン注入器の操作は、指導する側も指導される女の子も冷や汗ものだったと思います。
「あら、空押ししました?」
「カチッっていう音確認しました?」
たびたび入る私からの注意や突っ込みの嵐にイヤな顔一つせずに、素直にゆっくり手順を踏んでいきます。
自分が何か処置を行っている最中に、指導者から突っ込みを入れられると逆ギレの気持ちが湧いたりすることがあります。
『今やろうと思っていたのに』と、本当は忘れていたことを指摘された時ですら思うことがあります。
しかし、ゆっくりながらも素直に一生懸命、手順を踏んでいく女の子の姿には考えさせられるものがありました。
握力が弱いながらも確実に操作出来るようになり、入院中実際に低血糖症状が起きたことで対処の方法も学び、ご自宅へ退院されました。
退院の頃には、素直な女の子の姿勢にすっかり感情移入しており、目に入れても痛くないほどの気持ちで見送りました。
1年後
看護学校を卒業して、実習先だった病院で病棟勤務になった私。
時間が経つにつれて、実習の時の記憶が薄れかけてきたところでした。
何気ない日常の昼食の配膳をしているところへ、女の子とお母さんが会いに来てくださりました。
「今日受診日だったんです。会えるかしら、と思って」
女の子は自宅近くの作業所に通っているとのことで、入院中の時よりもしっかりした印象でした。
不安気な表情が多かったお母様も、安心と余裕の笑顔を見せてくださるようになっていました。
1年という時の流れを感じながら、
「わあ、すっかり看護師さんですねぇ」
「いえ、ユニホームが変わっただけで、仕事はまだまだです」
なんて他愛もない会話をしたのを覚えています。
「突然ごめんなさいね、お仕事中に。お顔が見られて本当に良かった。」と早々にお帰りになるお二人をエレベーターまでお送りし、業務に戻りました。
疎遠
予想だにしない出来事だったので、新人だった私の心臓はバクバクでした。徐々に上がった心拍数が平常に戻ると共に、じわじわと嬉しさがこみ上げてきました。
回復して退院された患者さん方とは、大抵は入院中だけのご縁で、外来でお会いすることがなければそのまま疎遠になります。
でも、ふと『お元気かしら…』と思い出すことがあり、特にこの時は、お給料を貰っている自分に自信が持てなかった時期だったので、ことのほか元気をいただきました。
この世に生まれたからには「しっかりと生きていく」、そして親はそれを見守る。
先天性のハンディキャップを持った方と、ご家族の苦労は計り知れませんが、健常者も同じように大切なことだと感じながら、少し自信をもらえた出来事でした。
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