
病院は、多くの人の人生の始まりと終わりを迎える場所です。
そこで働く看護師は、多くの始まりと終わりをもっとも身近に感じる職業だと感じています。
今回は、私が体験した中でも最も印象に強かった「おわり」のお話です。
「仕事場に急にくるな」
私は入職してから半年が経過した程度で、まだ病院にも慣れず、仕事では怒られてばかりのまさに、新人ナースといった感じだったころ。
そんなときに受け持った患者様でした。仮に寅雄さんとお呼びします。
寅雄さんの主病名はがんでした。余命いくばくもない状態で高齢から認知症が進んでいました。
病院に入院しているということも理解ができておらず、「ここには出張できているが、何の仕事もないな」と寅雄さんはよく言われていました。
ご家族がお見舞いにこられても寅雄さんは「どなたですか?」と、認知症の影響でご家族のことも理解できていないようでした。
しかし時折は、ご家族のことが分かるようで、ご家族だと気付くといつも「仕事場に急にくるな」と寅雄さんは怒鳴っていました。
看護師に対しても同様で、訪室しても「私の部屋に勝手に入るな」とよく追い出されそうになることが多々ありました。
血圧を測るのにも毎回しっかりと事情を説明して納得していただくまで、一苦労したのを覚えています。
検査のときは特に大変で、納得していただくのにさらに多くの時間が必要でした。
意識と血圧の低下
数日が経つと寅雄さんの病状は悪化し、動くことが痛みにより困難になりました。
いつも数名の看護師が介助して移動を行っていました。
以前のような言動も少なくなり「動かすな、体が痛い」という旨の発言が多くなってきました。
さらに数日が経つと、日中でも眠っていることが多くなり徐々に血圧も下がり始め、徐々に反応が薄くなってきました。
「いよいよかもしれない」ということで、医師と相談しご家族をお呼びすることになりました。
病状の悪化と改善
寅雄さんの奥様は昔からひざの調子が悪く、普段は面会に来られることはありませんでした。
しかしこの時ばかりは・・・と、奥様も車椅子で一緒にお見舞いに来られていました。
奥様とご家族を病室に案内し、私は後ろで見守っていました。
日当たりの良い窓際のベッドで、寅雄さんはいつものように眠っているように見えました。
奥様が声をかけると、寅雄さんがゆっくりと目を開けて
「おお、来てくれたんか。おまえ、足の調子はええんか」とつぶやきました。
「別の場所に出張するんだ」
私はにわかに信じることができませんでした。
それまではほとんど反応もなく、面会に来られたご家族のことすらも分かるか分からないかというほどの状態でした。
だからこそ、ご家族の皆様を病室にお呼びしました。
寅雄さんが反応してくれたことが、よほどうれしかったのかもしれません。奥様はハンカチで目頭を押さえていました。
その日をさかいに、次第に寅雄さんの容態は安定し、ターミナルケア専門の病院に転院していかれました。
最後まで「出張だ」と思われていたようで、転院の日には「別の場所に出張するんだ」と寅雄さんは言っていました。
私が最後に見た寅雄さんの姿は、奥様やご家族の方と話しながらエレベーターに乗る後ろ姿でした。
看護師のゴール
人間には時々、予想できないような事態が起こることがあります。
それは自分自身の力であったり、周りの人からの影響であったりとさまざまです。
看護師として、患者様に良い影響を与えることができるようになることが看護師のゴールなのかもしれません。
- 人気の記事
いまアジアがアツい!看護師にアジアが人気の理由って?
看護師が転職するときに特技ってどう書けばいい?
転職して1年以内の妊娠は非常識?看護師と産休のイロハ
シンガポールで活躍する看護師になるには?シンガポールの看護師の求人と年収事情!
カナダの看護師の年収事情は?カナダで看護師として働く方法を考える
- 新着記事
-
デキる先輩ナースに学ぶ!やっぱり凄い仕事がデキるナースの特徴 -
日勤・夜勤…結構シフトがハードな看護師の勤務形態&時間 -
トイレに行く時についでにチェックしたいナースの身だしなみ -
こんな先輩ナースとは働きたくない!ムカつく先輩の言動 -
いるよねー!性格が悪いと思われがちな看護師の特徴