
看護師は仕事の中で、患者様に厳しいことを言う場面が少なからずあります。
そんな中で「自分のした看護が正しかったのか」「もっといい方法があったのではないのか」悩んだりすることも多々あります。
このお話は私の看護師としての仕事の中で「おそらく答えが出ないであろう」と思える患者様とのお話です。
どうしてもタバコが吸いたい
私が2年目の看護師として病棟で勤務をしていた頃のことです。
入院してこられた女性は、深いシワに隠れたおだやかな表情が印象的な方で、お見舞い客からは「トクさん」と呼ばれていました。
トクさんは入院当初から容態が安定しておらず、肺がんの末期でした。
体を動かすことはできるものの、肺の機能が下がっているため、慢性的な息切れがトクさんを苦しめていました。
トイレや体拭きをするときも、「息苦しい、きつい」とぼやかれていました。
息苦しさと同時に痛みも常につきまといます。強い痛み止めを何度も使用していましたが、それでも痛みは相当なものだったと思います。
そんな日が続いたある日、トクさんからナースコールがあり「どうしてもタバコが吸いたい」という訴えがありました。
病気があるのにタバコなんて
皆様もご存知だと思いますが(特に)肺の病気に対してタバコは厳禁です。
トクさんはへヴィースモーカーでしたが、病気が分かってすぐにタバコをやめて治療に専念していました。
そのトクさんが「どうしても吸いたくなってきた」と言われるのです。
その当時の私は、「病気があるのにタバコなんかもってのほかだ」と思い、説明をしてタバコを吸うことをあきらめていただきました。
トクさんは「まぁ、そうだよね」とうなずき、それからタバコのことを口に出すことはありませんでした。
あまりにすんなり納得されたことに違和感はありましたが、トクさんは最初から結果を予想していたのかもしれません。
浅はかにも分かってもらえたことに満足した私は、その日の勤務を終えて連休に入り、束の間の休日を過ごしました。
連休明け
休みが明けて病院にいくと、トクさんは静かに眠っていました。
明るい陽射しに照らされたトクさんの横顔は、どこか寂しげにも見えました。
私の連休中に容態がさらに悪化し、がんの痛みをやわらげるために麻薬の使用が始まっていたのです。
麻薬の使用で痛みの多くを取り去ることができますが、痛みを感じる機能が麻痺していくようにどんどん深い眠りに入っていくようになります。
トクさんは眠るようにそのまま・・・。
その後、トクさんのご家族にお話を聞いたとき、初めて知りました。
心残り
トクさんがもともと相当の愛煙家であったこと、もしこのまま亡くなることがあったらその前に最後に好きなタバコを1本吸いたいとつぶやいていたこと。
「どうしても吸いたくなってきた」とお話をしてくれたあの時、トクさんは悟っていたのかもしれません。
もしあの時私が別の判断をしていたら・・・トクさんは心残りがあったのではないか。そう考えるとどうしてもやりきれない気持ちでいっぱいになりました。
ご家族の方のお顔を見るのがとてもつらかったことを強く覚えています。
何が正解か
「看護師の仕事には正解がない」よく言われている言葉ですがこの言葉の意味を実感させられる出来事でした。
おそらく答えは今後も見つからないでしょう。
そのときの状況と知識をフルに活用して判断することが求められる仕事だと思います。
『最大限患者様の立場に立って看護師として判断する』
正解のない看護師の仕事は常に看護観との葛藤なのだろうと思います。
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